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2月の豆知識 銭湯と持続可能性

春らしい日差しと紅白の梅に包まれながらも、寒さの残る今日この頃。

皆さんはいかがお過ごしでしょうか。

今回のテーマは「銭湯と持続可能性」についてです。


銭湯の起源

6世紀に大陸より渡来した仏教において、入浴は病を退け福を招くものとして推奨されていたという。そのため、当時の寺院には浴堂という入浴施設が設けられ、貧しい人々や病人などに浴場を開放した「施浴」が行われていた。施湯は布教活動や仏事の一部として行われたものであったが、人々が入浴の楽しみを知り、後に平安京で「湯屋」と呼ばれる公共浴場が設立されるきっかけになったとも考えられる。また、鎌倉時代には社交場のような役割も果たすようになり、入浴料も徴収するようになった。これが現在の銭湯の原型になったとされる。

『洗湯手引草』(光明皇后が仏のお告げで施湯を行う様子)


江戸の湯

江戸時代には、一銭で入浴が出来ることから「銭湯」と呼ばれるようになり、町人たちの身近な楽しみになった。江戸初期までは蒸し風呂(現在のスチームサウナのようなもの)であったが、後に柘榴風呂というものが主流になる。浴槽と洗い場の間の天井に板を設けて蒸気を逃がさないようになっており、まさに湯船とサウナがセットになっているような造りである。蒸気によって浴槽内の温度が50度ほどになることもあったというから、現在のサウナブームでは喜ばれたかもしれない。少し余談にはなるが、当時は、米ぬかを紅の木綿袋に詰めた洗顔料が使われており、紅葉袋という粋な名前で呼ばれていた。美白効果などもあると言われており、環境に良く、ハンドメイド出来るので興味があれば試してみても面白いかもしれない。また、当時の銭湯は浴槽で声を掛け合う文化があったり、2階には社交場が設けられていたりと人々の憩いの場にもなっていたのだろう。残念なことに、柘榴風呂は明治政府による厳しい禁止令により時代の幕を閉じたが、銭湯文化は現在にも引き継がれている。

『諢語浮世風呂』(左上に柘榴風呂、右側に2階に登る梯子がある)


銭湯のある生活

以上、銭湯の歴史について書いてみた。人々は昔から風呂好きなようで、江戸人たちは1日に2回も3回も入ったりしていたというから、銭湯文化が花開くことは、必然であったのかもしれない。私もそんな歴史を想いながら、最近は時折銭湯に足を運ぶ。受付でのやり取り、賑やかな脱衣所、足の裏に触れるぬるいタイル、白い湯気のたつ湯船。感じるもの全てが、心のどこかにあった不安や孤独を自然と崩してくれる。この”湯船”という場を通して他者や、その延長線上の地域社会と繋がっている実感が得られるのだろうと思うのだ。実際に銭湯の利用頻度が高い人は、低い人と比べて主観的幸福度が高いとの研究結果もあるらしい。家の湯船では再現できない、圧倒的な湯量と高い温度は、免疫細胞を活性化させたり、血行を促進させる効果が期待できるという。私は、多くの人が湯船を共有する時間が環境課題の貢献にも繋がると考えている。原理としては、公共交通機関が環境に良いとされることと同じであり、個人個人が家で風呂を沸かすより、銭湯で多くの人が集って入浴を行う方がエネルギーの削減になるだろうというものだ。利用者の幸福と健康の向上が期待でき、利用する人が増えるほど環境負荷の削減になるのならば、銭湯文化はまさに私たち独自の持続可能な在り方であり、未来に残すべきものと言えるだろう。

まだ寒さの残る今日この頃、皆さんも近所の銭湯に訪れてみてはいかがだろうか。


記事制作者 松田龍之介



画像引用元


・国立国会図書館デジタルコレクション(​​​​国立国会図書館デジタルコレクションhttps://dl.ndl.go.jp


参考サイトリンク


・入浴スタイルとデザイン


・銭湯利用と健康指標との関連



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