夏の残暑も過ぎ、秋雨と虫の音に包まれる今日この頃。
皆様はいかがお過ごしでしょうか。
今回は「ゴミ問題と歴史」というテーマで解説して行こうと思います。
なぜ歴史を見るのか
なぜゴミ問題がテーマなのに、歴史を見るのか疑問に思う人もいるだろう。歴史は私たち人類の記録であり、そこには多くの学ぶべきことがあると言える。「歴史は繰り返す」という言葉があるように、今の問題は遥か昔の先人たちも頭を悩ませていたことも少なくない。例えば、江戸時代に少子化問題に取り組み、積極的に縁談を進めた幕府から、少子化の問題性とその対策を覗けるように、一見関係が薄そうに見えるゴミ問題も、歴史というレンズを通すことで、新しい角度で眺め、より深掘りすることができるだろう。次の「ゴミ問題の起源と考察」の章で詳しく触れるが、ゴミ問題は私たちの文明と同じくらい古い歴史を持ち、この問題を解決することはヒトという種の行動を変える事に等しいと言っても過言ではないかもしれない。この記事では、歴史という視点を通して、私たちが挑むべきゴミ問題がどのようなものなのかを深掘りしていきたい。
ゴミ問題の起源と考察
ゴミ問題の起源はどこにあるのだろうか。それは、遥か昔に起こった人類の生活の変化に見出すことができるのかもしれない。その一つが移動生活から定住生活への変化である。私たちの先祖は、様々な場所を転々しながら暮らす、移動生活を行っていた。移動生活社会では、周りの資源が底を尽きたら新天地へ移動し、生活で出る廃棄物などは、そのまま捨ててしまっても、自分たちの生活環境に支障をきたすことは無かった。しかし、一箇所に留まって暮らす定住生活になると状況は変わってくる。定住生活社会では、移動ができないため、周辺の限られた資源の中で生存する必要がある。その結果、資源管理や食糧生産ができる農耕などを行う必要に駆られ、廃棄物も自分たちの生活する地域に捨てることで衛生的な問題が発生するようになった。これが、恐らく最も古いゴミ問題の起源だろう。後に貝塚などの集落単位のゴミ捨て場が作られるようになり、これは人類が廃棄物に対して、最初に行った政策だったのではないだろうか。定住生活をする段階から、人類は農耕を始めて文明を発展させることになった。それと同時期に発生して、現在まで対策を続けてきたゴミ問題は、長い間移動生活を続けてきた、私たちの本能への挑戦とも言えるのかもしれない。
ヨーロッパ都市におけるゴミ問題
では、具体的にゴミによってどのような問題が発生していたのだろうか。時代が飛ぶが、その答えの一つとなるのが19世紀頃のパリの状態である。当時のパリ市民たちは、窓から道にあらゆるゴミや排泄物などをポイ捨てしていた。道は中央に向けて傾斜しており、雨などでゴミが流れるように作られていたが、ほとんど機能することはなく、都市にはゴミが山のように溢れかえり、河川はゴミによって汚染され、酷い悪臭に見舞われていたという。余談だが、香水はこの時代に悪臭を誤魔化すために発達し、ハイヒールは汚れた道を歩くために使われていたのだそうだ。そのゴミを含めた衛生環境の悪化により、住民たちの間ではコレラなどの疫病が流行し、多数の死者を出す結果となってしまう。パリだけに限らず、ヨーロッパの都市の多くでは、このようなゴミ問題が発生していたと言われている。パリでは後に上下水道の整備やコレラ問題を背景としたパリ大改造と呼ばれる都市の改造計画により、衛生問題は解消していった。ヨーロッパの諸都市がゴミ問題や衛生問題を解決していった一方で次は日本の状況に目を向けてみたいと思う。
日本のゴミ問題の歴史
日本で最初の百万都市、江戸は高度なリサイクルと廃棄システムが発達した都市であった。それは、都市に人口が密集したことにより発生したゴミの不法投棄を政策によって解決しようとした徳川幕府の取り組みと国内の乏しい資源を無駄なく使うように発展した社会構造の結果と言えるだろう。前回の記事でも述べたが、ゴミが価値のある資源として介在していた文明は当時、世界的にも珍しいのではないかと感じる。そして江戸が終わり、明治になると公衆衛生を背景として『汚物掃除法』という法律が制定されることになる。この法律により、ゴミの廃棄は行政の管轄に託されることになる。ゴミは「なるべく焼却すべし」とされており、焼却炉が普及していなかった当時は野焼きが主な廃棄方法となった。そして、戦後は東京オリンピックにより、大量消費社会が到来し、高度経済期と都市への人口の一極集中も相まって、ゴミ問題とその公害が深刻化した。1950年代にはイタイイタイ病や水俣病などの公害による病気が発生し、社会問題となる。後に公害を含めた様々な問題を受けて1970年に『廃棄物の処理及び清掃に関する法律』の公布や様々なリサイクル法などが制定により、ゴミや公害はより厳格に定められていった。
現在の法的な定義
ここでは、現在のポイ捨ての法的な定義を書こう。現在におけるポイ捨てとは、公共的な道端などのゴミを捨ててはならない場所にゴミを廃棄する行為である。日本においてのポイ捨ての法的な定義は『廃棄物の処理及び清掃に関する法律』で第16条により「何人も、みだりに廃棄物を捨ててはならない」とされており、その罰則については第25条第14号に「第16条に違反した者は5年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金、またはこれを併科する」とされ、違法な行為となっている。
ゴミ問題のこれから
今までのゴミ問題は衛生問題と深く関わってきたが、現在では異なる危機に晒されている。それは、ゴミが生分解性では無くなったことだ。その中には、何百年にも渡り影響が残る放射線廃棄物や400年から1000年は分解されないプラスチックなど高い危険性を持つものも少なくない。開発途上国では先進国からのゴミに苦しみ、2050年には海洋に流れ出したプラスチックは魚の量を超えるのだという。私たちの「捨てる」という本能によって、外に追いやったゴミは、今や人類の存続さえ脅かしそうになっている。だが希望もある。それは、私たちが捨てることもあれば、拾うことも出来るからである。ゴミ拾いは私たち自身の問題を克服する行為だろう。また、ゴミ問題の悲惨な歴史を繰り返してはならない。
BYEゴミプロジェクト役員
松田龍之介
画像引用元
・DreamStadio(https://beta.dreamstudio.ai/home)
参考文献
出典:國分功一郎(2015年3月7日)『暇と退屈の倫理学 増補新版』太田出版
参考サイトリンク
・日本の廃棄物処理と歴史と現状-環境省
Comments